猫とトキソプラズマ
先日、人のトキソプラズマ症に対する新薬の保険適用が日本でも承認された、と言うニュースを見ました。トキソプラズマは人が感染してもほぼ無症状ですが、妊娠中の初回感染に限り赤ちゃんに先天的な障害が出る可能性がある寄生虫です。これを治療できる新薬ということで、私も大変感動しました。
しかし、このニュースに対する人々のコメント欄を見て、私はとても悲しく、また怒りすら覚えました。
「妊娠中に猫を飼うべきではない」
「妊娠が分かったら猫を手放すべきだ」
「妊娠を希望する人が猫と一緒に暮らすなんて知識不足」・・・。
私は、こういったコメントを見て、私たち臨床獣医師の仕事は、動物病院で診療をすることだけではなく、動物に関する正しい知識を伝えていくことも重要であると、心から思いました。
私自身、猫と暮らしていますし、息子が生まれる前から、奥さんの妊娠中も、そして生まれてからも、大切な家族として猫と一緒に暮らしています。人の知識不足から猫が悪者にされるのが、我慢できません。
人のトキソプラズマの感染経路は、
①生肉を食べること
②感染初期の猫の糞便を摂取すること
の2点です。
①の感染経路に関して、人は生肉を食べますから、無症状なだけで既に感染して抗体を持っている人も多いです。
②の感染経路に関しては、生野菜などをよく洗わずに食べることで感染が成立するかもしれません。
まずは、妊婦さんは生肉食に気をつけて、また野菜等もよく洗って食べて下さい。
猫に感染させないようにするためには、「生肉を与えないこと・外に出さないこと」たったこれだけです。猫の糞便にトキソプラズマが排出され、人に対する感染源になりうるのは、その猫が初めてトキソプラズマに感染した後の数日間だけです。それ以降は便にトキソプラズマは排出されません。ですから、完全室内飼いでキャットフードを与えている猫であれば、人に対する感染源にはならないのです。
また、動物病院で猫のトキソプラズマ抗体検査を希望される飼い主様も多いです。この検査の解釈には注意が必要です。
簡単に言うと、「猫の抗体価が高い方が良い」です。
抗体価が高い場合、過去にその猫はトキソプラズマに感染していたということになり、もしまた感染しても便には二度とトキソプラズマは出てこない、ということになります。
また、産婦人科で人の妊娠前の検査としてトキソプラズマ抗体を測定すると思います。この検査で、既に抗体を持っている(過去にトキソプラズマに感染している)女性は、新たに妊娠中に感染しても問題はありません。
つまり、気をつけないといけないケースは
「抗体のない女性・抗体のない猫」の組み合わせとなります。
しかし、もしそのような場合でも、猫に関しては「生肉を与えない・外に出さない」だけで、その猫は感染源とはならないのです。
たったこれだけなのです。
いつもそのようにして猫と暮らしていると思います。
妊娠を希望していても、そして妊娠しても、猫を手放す必要なんてあるわけがないのです。
猫を悪者にしようとする人が多いことに、つい熱くなってしまいました。猫は私たち人にとって、幸せを運んでくれる大切なパートナーです。トキソプラズマに関するご相談がありましたら、当院までお気軽にどうぞ。
動物医療センター とよた犬と猫の病院
院長
北原 康大